(実は帯(おび)の中にはこんなものが入っています。)
トラウザーズ(スラックス)の試作縫製3回目として、
今回はパーツ工程の中の帯(おび)作りの工程について説明していきたいと思います。
また、おさらいですが、帯(おび)とはこちらのパーツになります。
実際にはこちらに使用されています。
裏側には通常このようなパーツが付けられています。
こちらの名称は腰裏(こしうら)と呼びます。
腰の裏側だから、腰裏(こしうら)、単純です。
さて、こちらの帯(おび)工程ですが、トラウザーズ(スラックス)作りにおいては
非常に重要な役割があります。
それは、「ウエスト寸法を確定させる」役割です。
もちろん、前身頃、後身頃の寸法をきちんと採寸通りに裁断して、
縫い代通りに縫製すれば、理論上は予め設定されたウエスト寸法に
どおりに上がるはずなのですが、
やはり生地は「生もの」、素材や織り方、縫製やアイロンの工程での
縫い縮みや伸びもあります。
また、ウエスト寸法に関連する工程の縫い代のばらつきにより、
寸法の誤差が出てしまうこともあります。
ちなみにウエスト寸法に関連する裁断、縫製のばらつきだけでも
以下のようなものが挙げられます。
裁断時のカッティングのばらつき
前身頃のオーバーロックの削れ(脇側と尻側)
後身頃のオーバーロックの削れ(脇側と尻側)
前身頃のタックのつまみ量のばらつき(タックありの場合)
後身頃のダーツのつまみ量のばらつき
上前(うわまえ)(左側)の脇縫いの縫い代のばらつき
※脇縫い=前身頃と後身頃の脇側での縫い合わせ
下前(したまえ)(右側)の脇縫いの縫い代のばらつき
前立て付けの縫い代のばらつき
天狗付けの縫い代のばらつき
尻縫い(しりぬい)<後ろ中心の縫い合わせ>の縫い代のばらつき
ここに10工程を挙げていますが、
仮にこれらの工程がそれぞれ1mmずつずれていただけでも
10mmのずれになってしまいます。
タック縫いやダーツ縫い、脇縫いなどの合わせ縫いの工程は
縫い代が1mmずれると両側の2倍のずれになるので、
さらにばらつきが広がる可能性があります。
もちろん、できるだけ各工程のばらつきを無くすように当社も含め、
各工場さんも努力されていると思いますが、やはりこれだけの
ばらつきの要素があるということなのです。
では、どのようにしてウエスト寸法を確定させるのかというと、
帯芯(おびしん)を使用します。
こちらが帯芯(おびしん)です。
帯(おび)の裏側に貼り付ける帯芯(おびしん)で正確な寸法を出して、
それを帯び付け工程にて、前身頃(まえみごろ)、後身頃(うしろみごろ)に
帯(おび)を縫い付けることによって、正しいウエスト寸法を確定させるのです。
作り方は以下の通りです。
例を取って説明していきます。
今回は、帯巾が3.5cm、出来上がりのウエスト寸法を80cmとします。
上前(うわまえ)(左側)と下前(したまえ)(右側)の帯があるのですが、
まずは上前(うわまえ)(左側)の帯の方から説明していきたいと思います。
下の写真を見てみてください。
(上前(うわまえ))
まず、ウエスト寸法の2分の1の寸法(40.0cm)を基準寸法とします。
その基準寸法に1.0cmの腰回りのゆとり量を取ります。
このゆとり量をどれくらい取るかは各メーカー、工場によって考え方はさまざまです。
持ち出し(もちだし)無しの場合は、基準寸法(40.0cm)とゆとり量1.0cm、
それに尻縫い代(今回は3.5cm)を加えて、
上前(うわまえ)の帯芯の完成です。
持ち出し(もちだし)有りの場合は持ち出し(もちだし)の長さ分
(今回は5.5cm)を加えます。
また、持ち出しの形状に合わせて、予め、帯芯(おびしん)をカットしておきます。
(今回は三角の形状です。)
持ち出し(もちだし)とはこの部分です。
三角の持ち出し(もちだし)仕上がりはこんな感じです。
次に下前(したまえ)(右側)の帯についてですが、こちらの写真を見てください。
(下前(したまえ))
まず、上前(うわまえ)と同様に基準寸法の40.0cmにゆとり量1.0cmを取ります。
それに、天狗長さの寸法(今回は6.0cm)と尻縫い代3.5cmを加えて、
下前(したまえ)の帯芯の完成です。
次に帯(おび)本体の作りについて説明していきます。
通常、帯(おび)は裁断時に指定の長さに基づいてカットしているのですが、
今回は帯パーツの寸法の設定の方法から説明していきます。
まずは帯巾についてです。
仕上がりが帯巾3.5cmの場合、帯び付け側に帯び付け用の縫い代1.0cm、
帯上側に腰裏を縫い付けるための縫い代1.0cm、
また、腰裏が表に見えないようにするための控え代0.5cmおよび
ゆとり寸法の0.2cmを加えて、合計6.2cmで設定しています。
つぎに帯の長さについてですが、まずは上前(うわまえ)側、左側から説明していきます。
こちらが説明の写真になります。
(上前(うわまえ))
持ち出し無しの場合は、前立裏の長さ(今回は4.0cm、前立てステッチの巾による)と
折り返し代(1.5cm)、それに基準寸法(40.0cm)と
ゆとり量1.0cmと尻縫い代(3.5cm)を加えた長さにします。
持ち出し有りの場合は、それに持ち出し寸法(5.5cm)の前側、
後ろ側分の2倍の長さを加えたものが帯の長さになります。
(下前(したまえ))
下前側は、帯前端部分での天狗パーツとのつなぎ代1.0cmに
天狗長さの寸法(6.0cm)、そちらに基準寸法の40.0cmと
ゆとり量1.0cm、最後に尻縫い代3.5cmを加えた長さに設定します。
こちらを帯(おび)のパーツに接着用のローラープレスにて、貼り付けます。
こんな感じです。
出来上がりはこんな感じ。
通常は出来合いの袋地で作った腰裏(こしうら)を縫い付けて完成なのですが、
今回の試作では、腰裏(こしうら)パーツも表地を使用します。
中に補強芯などを付けて、こんな感じでつくりました。
(表地で作った腰裏(こしうら)パーツ)
こちらは実際に作っている時の写真です。
今回は手元が見やすいよう、アップにしてみました。
でも、実際に載せてみると、腰裏(こしうら)パーツもわかりづらいし、
作業風景もわかりづらかったですね。すみません。
帯(おび)と腰裏(こしうら)を縫い合わせた完成形はこちらです。
こちらは実際に製品となったところを腰裏側から撮ってみました。
表地で作った腰裏(こしうら)と通常の袋地で作った腰裏(こしうら))の比較です。
(表地で作った腰裏(こしうら))
(通常の袋地で作った腰裏(こしうら))
生地が変わっただけなので、それほど見た目の変化はありません。
ただし、肌触りは格段の差です!
またまた、長くなってしまいました。
お付き合いありがとうございました。
ここに来てくれた方にいいことがありますように。