(両側ともとがった針って見たことありますか?)

 

今回から試作縫製の第9回目として、
前身頃(まえみごろ)工程について、お話ししていきます。

「トラウザーズ(スラックス)試作縫製(1)(オーバーロック工程)」でも
お話ししたのですが、基本的には、目に見えるところで、ほつれやすいところに
ついては、全てオーバーロックというかがり縫いをおこないます。

前身頃(まえみごろ)におきましては、まず、オーバーロックを掛けた状態として、
以下のような状態になります。
 

 
今回はノータック使用のため、特にタックをつままないのですが、
タック使用の場合はここで、タックをつまんでおきます。

それから、前ポケット作りの工程で説明した「前ポケット」を
前身頃(まえみごろ)につけていきます。

まずは前ポケットを一番下にセットします。
 

 
今回は「もみ玉」仕様プラス「AMFステッチ」仕様を採用しようと
考えているので、

その上に前身頃(まえみごろ)見返し(みかえし)というパーツを
セットして、点線部分にて3つのパーツを縫い付けます。
 

 
次に見返し(みかえし)パーツを点線部分の縫い目に沿って
折り返し、1.0~1.5mmほどの幅で表側に見えるように
アイロン処理をします。(これを「玉出し(たまだし)」と言います。)

 

 
ちょっとわかりづらいので、拡大するとこんな感じになります。
 

 
こちらが「もみ玉」仕様と呼ばれる仕様になります。

こちらはまだ洋服が日本に普及しだし始めた頃、
それこそ、服と言えば誂(あつら)えるという時代、

舶来の生地が高価だったため、生地を大事にしようということで、
この見返し部分を当て布として使用し、この部分が擦り切れてきたら、
その都度、取り替えていた時代の名残りの仕様です。

そうすれば、前身頃(まえみごろ)が擦り切れることで、
前身頃(まえみごろ)全体を取り替えたり、

それこそ、トラウザーズ(スラックス)をまるまる作り変えなくても
いいですよね。

さすがに今、この部分を取り替えながら着用される方は
ほとんどいないようですが、

まさに日本の「もったいない」の精神に通ずる仕様ですよね。

この「もみ玉」仕様に「AMFステッチ」を入れます。

できあがりはこんな感じです。
 

 
写真ではちょっとわかりづらいですが、

やはり普通の本縫いのミシンで縫ったものよりも、
カッチリし過ぎず、ほどよい風合いを醸し出します。

なぜ、AMFステッチと呼ばれるのかなのですが、
これは、単純に米国AMF
(American Machine and Foundry)
(アメリカン・マシン・アンド・ファンドリー)社が開発したミシン
だからです。

そして、このミシンがすごいのは、

人が手縫いで入れたステッチと同じように
ステッチを入れられるミシン

なのです。

ミシンはこんな感じです。
 

 
通常のミシンは上糸と下糸の2本糸で縫われ、
上糸を通した針とボビンに巻かれた下糸を引っ掛け合いながら
縫い目を作っていきます。

しかし、このミシンは上下共にとがった特殊な針を使用し、
 

 
その針を上下にそれぞれ取り付けられた針棒(はりぼう)
キャッチボールしながら波縫いしていく機構なのです。
 

 
イメージはこんな感じです。上下のパーツが針棒(はりぼう)になります。

しかし、よく、こんなものを考えたなぁ~と本当に感心してしまうのですが、
お値段もそれなりで、当時からウン百万円もする品物でした。
 
余談ですが、このAMF社、ボウリングのピンを自動でセットする
機械を開発したり、原子力産業に参入したり、自転車を作ったり、

一時期はバイクのハーレーダビットソン社などを傘下に入れていたりと、
アメリカでもかなり大きなコングロマリット(複合企業)でした。

紆余曲折があり、買収されたり、分社化されたりして、
現在は、1991年にAMF Sewn Products Inc.と
The Reece Corporationが合併した
AMF Reeceという会社が縫製機器を作っております。

すでに当社が使用しているような機械制御のミシンは製造されておらず、
電子制御されたAMFステッチミシンが販売されています。

希少価値があると言えばあるのですが、
逆に言えば、新しいミシンを買う余裕がないだけとも言えます。

日本のミシン取扱代理店はヤマトミシン製造株式会社となっています。

ちょっと長くなりましたが、
AMFステッチを入れた後にポケット口(ぐち)の上下を
仮留めした状態で前身頃(まえみごろ)の工程は終了です。

次回は後身頃(うしろみごろ)についてお話していきます。

それでは、ここに来てくれた方にいいことがありますように。